『黒帯への道』のコーナーに寄せて

『黒帯への道』から『誠への道』へ   
 
 
人が空手道を歩み始めるきっかけは様々です。


「かっこよく見えたから」「けんかに強くなりたい!」「パパ・ママにつれられて何となく…」
など、それ程深いものがあった訳では無いと思われます。

 しかし踏み出したその第一歩は目の前に多くの目標をそれぞれに生みだします。

その目標に対し道場で修練を積み重ね、挑戦を繰り返していきます。

空手道独特の緊張感との闘いにおいて怖がる自分を奮い立たせ、『自分自身との闘い』に打ち勝てばパパ・ママでも買い与えてはくれない『自信』を身に付ける事が出来ます。

もっとも負けては懸けるものが大きい程、落ち込みます。

しかしながら、このような出来事も少年・少女とはいえ自分自身の心の中での問題です。

それぞれの家庭における王子様やお姫様も得意のワガママ攻撃?もここでは通じず、喜怒哀楽を繰り返しながらも一つ一つに正面から向き合いながら自分の力で心を立て直し、解決していかなければなりません。

そこにはすぐに助けてくれるパパ・ママはいませんが、決して独りぼっちではありません。

あまり深く考えずに始めた空手道も、道場という場所には必ず人との関わり合いがあります。

 

周囲を見回すと多くの同じ夢・志を持った仲間がそこには存在します。

同じように何らかの目標に対し悩み・苦しみ、時には喜んで…立ち向かっております。

子供であっても、自分から挨拶をして仲間に『礼』を尽くし、道場の中において自分の居場所を自分の力で築いていかなければなりません。

やがてその関わり合いは共に稽古を積み重ねて行くことによって、少しずつ深く・濃いものとなりお互いの帯の色や道場における立場もゆっくりと変わっていきます。

苦しく厳しい空手の稽古にはゆとりなどはなく本気で取り組まざるを得ません。
飾る・気取る・装うなどの壁は崩れ落ち、その合間にはお互いにポロリと本音などもこぼれ落ちます。

お稽古事の場所で出会った『お友達』はやがて『同志』へ強く・清い絆で結ばれたものとなります。


一生涯付き合える仲間に成れる可能性さえもあります。



  励まし合い、協力して厳しい稽古に打込み、稽古後に(苦しさからの解放感から)無邪気に笑いあう少年・少女を見て青武学舎という道場において最も大切なものは何なのかと思い・考えます。

 目の前の目標に全力で挑戦することによりその過程において掛け替えの無い『同志』を得る。

 親から受け継ぎ授かった自己の心身を磨き高め立派なものに成長させ『自分自身』を形成し自立する。

 そして多くの試練と修練から培われた徳性から自ら親孝行をし、さらには社会に役に立つ人間になっていく。

 仁・徳といったものは学習によってすぐに身に付くものではありません。

知識の範疇の中の仁・徳など時が経てば、きれいに忘れてしまいます。

『仁・徳を明確に意識させて稽古を行う』 ことによって、空手道の技・芸と共にゆっくりと磨きながら熟成され、心の深部に浸透していくものでしょう。



道に志し、徳に拠り、仁に依り、藝(げい)に游ぶ
(『子曰、志於道、據於徳、依於仁、游於藝』*論語 述而第七)



それは一生涯離れることはないものとなるはずです。



*もっとも仁・徳とは本来はしきたりに沿って自然に備わっていくものが理想的であることは承知しております。

しかしながら価値観が多様化している現代においては年々難しいものになっているのが実情ではないでしょうか。

故に『教育(ある人間を望ましい姿に変化させるために、身心両面にわたって、意図的、計画的に働きかけること)』が現代において、より一層大切なものとなっていると私は考えます。


『空手道青少年育成武道教育学舎』

 この理念が明確に掲げられた名称を持つ道場として、それを貫くことを忘れずに『徳育を常に意識して(この常に意識してという姿勢が大切であると思います)稽古を行い』社会に有益な人材を輩出する道場、『人間形成』を行う道場であることからブレないこと―

たしかに「勝利を得る」「帯の色を変えて行く」という明確な目標は大切です。

しかしそれは大切な『誠の道』を見据えて歩く為のきっかけであり言わば道具でありそれが全てのゴールであってはなりません。

「何が根本であり何が末節であるのか」

私自身を含めて今回黒帯を締めることとなった3人も、ただ稽古を行いただ自己の技を磨くだけではなく、それが見極められる様に心掛けておかねばならないことでしょう。


 12月4日に行われた昇段審査会から数ヶ月が経ち、合格した3名も少しずつ黒帯を締める姿が似合う様になりました。

 以前より増してより空手道を極めようと熱心に技を磨く彼らにとってはもう帯の色が何色であろうが大した問題では無くなっているのではないでしょうか。



浅く薄いものから深く濃いものへ、

 末節から根本・本質・人として本当に大切なものへ、

  格好・ファッションの黒帯から本物の『心の黒帯』へ、

  『黒帯への道』から『誠への道』へ―


先日、この『黒帯への道』のコーナーを改めて最初から拝見しながら、実際に『誠の道を志す空手道場』から数多くの審査会・試合・査定テスト・小論文の提出などを経て黒帯を輩出することが出来、私自身も心に期するものがありました。

 また青武学舎という小さな道場も今年で5周年、今回の昇段審査会の開催で1つの節目を迎えた様な思いがあります。

 次回の昇級審査会からは新たな気持ちを熱く抱いて臨む所存です。

 今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

 

 

 2012年3月 これから出会う未来の黒帯たちに思いを馳せて

空手道青少年育成武道教育学舎

代表 岡本 衛